同一労働同一賃金

○なぜ同じでないといけないか?

同じ仕事をしているのに、正社員と非正規社員(パート・アルバイト・派遣社員など)など、雇用形態の違いによって賃金が異なるというのが不合理であるという指摘がある。その不合理を解消するため、とられようとしている政策が、「同一労働同一賃金」である。同じ労働に対し、同じ賃金を支払うことで労働者間の格差を是正し、非正規労働者の賃金上昇を促す、ひいては経済効果への波及や税収の増加を見込んでいる。

 

○導入の背景

そもそも議論となった背景は、非正規社員の賃金が低く抑えられることによって、さまざまな社会問題が顕在化してきていることがあげられる。現在、政府は経済界に対し、賃金上昇の努力を強く求めている。この政策もその一環であるととらえられる。賃金が抑えられることによって、消費が冷え込み経済成長が鈍ったり、将来への不安から家庭を持たない、または持ったとしても意図的に子供をもうけないため少子化への影響もあるとされている。
○導入の問題点そういった影響を抑えるため「同一労働同一賃金」の導入が求められている。しかし導入には大きく3つの問題がある。

まず、何をもって「同一労働」とするかである。実際に、同じ労働をしていると判断するのは困難である。大企業の第二次産業的な工場のような職場環境であれば、同じ生産ラインの中で働いていることでほぼ同一労働であろうということが推測できる。一方、サービス業の場合、同じ職場で席が隣同士であっても、同一労働と判断するのは非常に難しい。たとえば同じような書類作成業務が仕事の中核であるとする。その場合でも、正社員であれば、その中核に付随する管理業務や電話応対などが業務に含まれていることが多い。一方、非正規社員は、それらの付随業務が省かれている事が多い。このような細かい部分まで現状を把握しながら実際に同一労働同一賃金の制度を導入できるかどうかは甚だ疑問である。

つぎに、同一賃金とするための資源をどこから生み出すかである。そもそも非正規社員を雇用しているのは、賃金を抑えられ、かつ労働力を調整しやすいという側面がある。そのため同一賃金を導入せよと言われても、会社としては「無い袖は振れない」という状況となることも大いに考えられる。人件費としてのパイは限られているからだ。同一賃金が厳格に導入された場合、そのパイの中から賃金を分け合うことを考えると、正社員の賃金が減ることになる。前述の賃金アップによる目的とは逆行する結果も予想される。また、正社員の賃金を減らさないため効率的な働き方を見直すことで、非正規社員の職そのものが無くなる可能性もある。

最後に、罰則をどうするか、である。現在取り入れられている様々な雇用形態は、小泉内閣のときの規制緩和もあって、社会の要請があって培われてきたものである。それらを一朝一夕に変化することは難しいと思われるが、それでも変えていこうとする場合、ある程度の強制力が必要となる。それが罰則である。経営者個人によるのか、会社への業務停止などの制裁となるのか、罰則の重みはどれくらいか、など課題は山積している。

 

○最後に

実施されるにあたり問題が多い制度ではあるが、多くの非正規労働者に、同一労働同一賃金が実現されることによって、先に述べたような効果が見込めると思う。政府としては「同一労働」の明確な基準化、実施する企業に対する補助、労働者の環境変化に対応できるような法整備が求められている。